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第53話 なぜ、あの女なの

last update publish date: 2026-06-12 19:18:48

 病院の会計前ロビーは、夕方の光で白く薄まっていた。

 澄麗は自動販売機の脇に立ったまま、少し離れた椅子の並びを見ていた。

 見ようとしていたわけではない。

 けれど、目に入ってしまった。

 真尋が、朔弥の手に触れている。

 包帯ではない。小さな絆創膏を、赤くなった手の甲へ丁寧に貼っていた。顔を寄せすぎることもなく、泣きそうな顔をすることもなく、ただ当然みたいに世話を焼いている。

 朔弥は、その指先を見ていた。

 見つめる、というより、逃したくないみたいに。

 そして低く何かを言う。

 真尋の耳が、少しだけ赤くなる。

 その瞬間、澄麗はそばの柱に爪を立てた。

 爪先が、白い柱の角をかく。

 薄い音がして、淡いピンクのネイルが端から剥がれた。

 澄麗はそれを見なかった。

 違う。

 そういうふうに誰かを見る顔を、澄麗は知っている。

 家の集まりでも、会食でも、仕事の場でもない。

 男が、自分のものにしたい相手だけを見る時の顔だ。

 私の方が若い。

 私の方が美しい。

 私の方が家同士の釣り合いも取れている。

 御門にふさわしい子を産めるのも、御
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